【移ろいゆく魅力】

音楽と記憶って結びつきやすい。
昔よく聞いていたアーティストの音楽を掘り起こして聞いた瞬間、私が開業した直後の光景が目の前にパッと広がりました。
ちなみにこの歌手、今でこそ有名ですが当時はまだ駆け出しで知名度は低め。
ただあの頃に私が感じた
「この人、歌とダンスが楽しくてたまらないんだろうな」
という印象が今は薄れているのは気のせいでしょうか。

彼に限らず駆け出しの時ってとにかくエネルギーに溢れていて、
何が喜ばれるのかのヒントも持ち合わせていないからがむしゃらで、
期待や欲がほと走っているのが一目瞭然で、
クオリティという観点で見ると荒削りで決していいとは言えないけど、
なんとも言葉に形容しがたい魅力がある。

つくりての事を思い返しても、そうだと思う。
12年前の開業の頃は手間とか採算とか考えきれていないから、今だったらやらない企画をバンバン打っていました。
商品の荒削りっぷりも疾走感もすんごい。(トップの写真のトマトクッキーもそう。)
5年前のお店を構えた直後は、後がないというヒリヒリ感がこれまた独特な魅力を醸していたのではと思ったりもします。
だからと言って、今
「あの頃の魅力を再び取り戻そう」
とするのはナンセンスだと思います。
例えるなら、若作りと同じ。
20代前半の頃のように髪を巻いて、ばっちりメイクして、タイトなお洋服に身を包んで、高いヒールを履いた41歳の私は、想像するだけでミスマッチ。
今だから醸せる魅力を探求したい。

この歌手も今は国歌斉唱をしたり、現代アート的な楽曲をリリースしたり、あの頃とはまた違う魅力でファン層を獲得しています。
それは12年前には出せなかった魅力を探求した結果でしょう。
しかも41歳の私が当時のその歌手をみたら、そこまで魅力的には見えないかもしれない。
見る側の状態と、みられる側の状態がちょうどマッチしたときに
「魅力的」
に見えるんだろうなと思う。

人間、若さは武器ではあるけれども、
年を重ねたからこその武器も同様にある。
自分の得意不得意がわかってきたからこそ、伸ばせる力もある。
その時その時の力を最大限発揮できる形はどんなものなのか、どんな役割なのかを考えて、
進化を遂げていけたらいいね。